世界中で閉鎖され、打ち捨てられた鉱山は、中国がいかにして世界の重要鉱物サプライチェーンを掌握したかを物語る錆びたシンボルだ。現在、これらの鉱山の中には、資源が枯渇したからではなく、中国の過剰供給と価格ダンピングによって閉鎖されたものがあり、トランプ政権が中国のサプライチェーン支配を覆すべく各国を結集させる中で、再開される可能性がある。
新しい鉱山を稼働させるには最大15年かかる。そのため、業界の専門家によると、新しい鉱山が稼働するまでの15年間という長い空白期間を埋める、緊急かつ当面の供給源として、休止中の鉱山はタイムリーな一時的な解決策となる可能性がある。
しかし、鉱物を掘り出すことは課題の半分でしかない。米国などの西側諸国は、自国の鉱山を閉鎖した際、最も肝心な精製・分離技術(抽出プロセス)の開発競争からも手を引いてしまったのだ。
アリゾナ州に拠点を置く鉱山自動化コンサルタントのアヴァド・ナガラワラ氏は、鉱山の再開は「魅力的な近道」であると述べている。
同氏はエポックタイムズへのメールで、「鉱石の埋蔵量は確認されており、一部のインフラもそのまま残っているため、ゼロから新規開発を始めるよりも工程期間を短縮できる可能性がある」と語った。
ナガラワラ氏は、こうした再開プロジェクトが「(中国支配に対する)強力な復権のシンボル」としての意味合いも持つと指摘する。
その上で、多くの鉱山が閉鎖された背景には、鉱石の品質低下、運営コストの高騰、公害への地元住民の反対があったことを忘れてはならない。
彼は、「厳しい現実は、西側諸国が鉱物をより多く必要としながらも、自国での採掘には後ろ向きであるという点だ」と語った。
レアアース(希土類元素)は、風力タービンの永久磁石から電気自動車のモーターに至るまで、あらゆるものに不可欠な17種類の金属からなるグループであり、抽出が難しく、精錬はさらに困難である。
現在、不可欠な精製技術とノウハウの多くは、極めて重要なサプライチェーンと共に、中国の手中にある。
同じプレッシャーは、バッテリー生産や現代の電力システムの大部分を支えるリチウム、コバルト、ニッケル、グラファイト、銅といった他の重要鉱物にも当てはまる。
ここ数カ月、米中間の貿易戦争により、中国の重要鉱物支配の問題が表面化した。
10月、トランプ政権は、同盟国のサプライチェーンを強化するため、オーストラリア、カンボジア、日本、マレーシア、タイと100億ドル以上の重要鉱物取引を発表した。

トランプ大統領は最近、米国は「緊急プログラム」の下、18カ月以内にレアアース鉱物に対する中国への依存を断ち切ると発言した。
スコット・ベッセント財務長官は11月1日、中国が輸出規制をちらつかせたことが、米国とその同盟国が新たな供給源の確保を急ぐきっかけとなり、中国は「本当に大きな過ちを犯した」と述べた。
11月6日、トランプ政権は銅と冶金用石炭(原料炭:主に鉄鋼などの金属生産に使われる)を含む10種類の鉱物を、国家安全保障にとって不可欠な材料のリストに追加した。
欧州連合(EU)も傍観しているわけではない。欧州委員会委員長ウルズラ・フォン・デア・ライエンは10月25日、年内に中国への依存度を下げ、ヨーロッパの鉱物供給源を多角化するための新しい計画を発表すると述べた。
達成すべき課題は大きい。世界的な鉱業会社MMG(中国五鉱集団が過半数所有)のトロイ・ヘイ経営執行役員によると、現在の需要を満たすだけでも、今後25年間で約300の新しい鉱山が必要だという。
ヘイ氏は10月28日のビジネス会議で、「300の鉱山はもちろんのこと、1つの鉱山を立ち上げるのがどれほど大変かご存じだろう」と述べた。同氏は、必要なインフラ、投資、スキルは、業界が過去20年間で見てきたものを「遥かに超える規模」になるだろうと語った。
休眠中または停止中のプロジェクト
エポックタイムズの分析によると、米国、オーストラリア、カナダ、ヨーロッパでは、数十の長期間休眠または停止していた鉱山プロジェクトが、現在再開予定であるか、積極的に見直しが行われている。
これらのプロジェクトには、企業が実現可能性調査を実施中、許認可取得中、または生産再開のための資金調達を調整中の現場が含まれる。
例えば米国では、第二次世界大戦中に主要なアンチモン供給源であったアイダホ州のスティブナイト鉱山が、政府の支援を受けて再開発されている。
米国はまた、北米で唯一、採掘から処理まで完全に統合されたレアアース施設であるカリフォルニア州のマウンテンパス鉱山を重要な拠点として維持している。同鉱山は2022年までに世界の生産量の約15パーセントを供給した。

米国唯一の主要コバルト鉱山であるジャーボイス・グローバルのアイダホ・コバルト鉱山での操業は、コンゴ民主共和国の中国支配下のサプライチェーンが価格を実行不可能な水準以下に押し下げたため、停止されている。
オーストラリアでは、1981年に閉山した歴史的なマウントモーガン金鉱が現在修復中で、再開が予定されている。オーストラリアの日刊新聞「The Courier Mail」によると、同国最古の金鉱の一つであるこの現場の生産を回復させるため、2025年に新たな投資が発表された。
オーストラリアの連邦直轄領の一つ、ノーザンテリトリーでは、鉱山、処理プラント、分離施設を組み合わせたノーランズ・レアアース・プロジェクトが建設中である。
昨年、オーストラリアのメルボルンにグローバル本社を置いている世界最大級の資源採掘(マイニング)企業の一つであるBHPグループは、インドネシアからの中国が支配する過剰供給によって引き起こされた価格暴落を理由に、西オーストラリア州のニッケル事業を停止した。
スウェーデンにあるウォックスナ・グラファイト鉱山は操業を停止しているが、再開には巨額の投資が必要となる。グラファイトは電気自動車のバッテリーにおいて最も重要な構成要素であり、現在、バッテリーに使える水準に精製された世界中の供給量のほぼ全てを、中国が担っている。
英国では、世界で4番目に大きなタングステン資源を保有するデボン州のヘマーデン(ドレーケランズ)タングステン・錫鉱山が2018年に操業を停止したが、英国の地域ビジネス情報メディア「Business Live」によると、再開計画が進行中である。
また、アイルランドと南ヨーロッパでは、ナヴァン(タラ)亜鉛・鉛鉱山やスペインのバリュエコパルド・タングステン鉱山を含むいくつかの現場が、見直しまたは再開されている。

再開の理解
鉱山開発で30年以上の経験を持つベテラン地質学者でカナダに拠点を置く重要鉱物探査・開発企業であるStrategX Elements Corpの創設者兼社長兼CEOであるダーレン・バハリー氏は、古い鉱山の再開には限界があるという。
バハリー氏によると、「古い鉱山の再開は、経済的な見通しがあるか、閉鎖後の環境対策の価値がある場合に意味を持つ。だが、本質的な問題解決につながるのは、探査からサプライチェーンへの組み込みを迅速に行える地域での新規開発だ」という。
同氏は、連邦政府が最近20億ドルを投じたカナダを「特筆すべき模範例」であると指摘した。
さらに、「新しい鉱山の開発と精製能力は不可欠だ。政府は、許認可手続きを事業の障害(ボトルネック)にするのではなく、優先的に進めるべきである」と彼は主張した。
「真に不足しているのは、ニッケル、バナジウム、銅、コバルト、グラファイトといった、複数種の重要鉱物のすべてだ」と同氏は付け加えた。
バハリー氏は、「間違いなく需要は高まっており」、注目すべき地域は南北アメリカであると述べた。
鉱山を再開することには、環境を考慮した正当な理由もある。放棄された鉱山は、時間の経過と共に、川や地下水へ流れ出る汚染物質の量が増加する可能性があるからだ。
バハリー氏は、「溜まった水が酸性化したり、鉱物の廃棄物(鉱滓)が酸化したり、また、遮水シートや貯蔵設備といったインフラがメンテナンス不足で時間とともに破損したりする可能性がある」と指摘した。
同氏は、「管理体制の整った限定的な操業は、多くの場合、積極的に水の浄化処理や監視、汚染物質の封じ込めを再び行う。その結果、管理されないまま放置し荒廃させるよりも、全体の環境負荷を長期的によりクリーンで持続可能な状態に保つことができる」と主張する。

採掘だけでは中国を阻止できない
バッテリーのライフサイクル全体における責任ある管理と持続可能性を推進するために設立された、アメリカの産業界の団体「レスポンシブル・バッテリー・コアリション」の共同創設者兼最高経営責任者であるスティーブ・クリステンセン氏は、エポックタイムズに対し、鉱業業界はこれまでのトランプ大統領のリーダーシップに感謝していると語った。しかし、同氏は、より多くの材料を採掘しても、中国の市場操作の問題は解決しないと述べた。
「中国は安価な材料を市場に放出し、価格を暴落させ、損をしてでも売り続ける」と同氏は指摘した。 「競合企業が利益を考慮しない状況では、対等に競争することは極めて難しい」。
戦略コンサルティング会社Captjurの創設者兼CEOで鉱業部門の専門家であるボブ・ビルブルック氏は、エポックタイムズへのメールで、バイデン政権が環境保護庁を通じて、「これらの既存または休止中の鉱山での採掘拡大をほぼ不可能にした」と述べた。
同氏は、トランプ政権は「これらの鉱山を連邦政府の管理下に置き、生産と処理を再開し拡大すべきだ」と述べた。
廃棄物の価値
不足を補う可能性のある金属の多くは、現在の技術では採り出せない低品質の鉱石や、採掘時に出た廃棄物の中に閉じ込められたままだ。
科学者で発明家のエリック・ヘレラ氏は、既存の鉱石や廃棄物からより多くの金属を回収する方法を開発しているMaverick X社のCEOである。
同氏はエポックタイムズに対し、この抽出技術の発明はリチウム価格の暴落によって推進されたと語った。

「現在、私たちは(リチウムだけでなく)ウラン、ラジウム、そしてレアアースについても、抽出技術の適用を始めている」
同氏は、あらゆる種類の金属が鉱物岩の中で様々な状態で混ざり合っていると述べた。
同氏のアプローチは「全てを取り出す」ことだ。
ヘレラ氏は、「その岩から価値のあるもの全てを絞り出す、それが基本的に私たちがしていることだ」と述べた。
同氏は、廃棄された電子機器やその他の産業廃棄物からレアアースを回収することは、「最も簡単に達成できる目標」の1つであると述べた。
ヘレラ氏はまた、集積回路やLEDなどに使われるガリウムを、自社の技術の有効性を示す具体的な事例(概念実証)として挙げた。ガリウムは単独の鉱山から採掘されるのではなく、他の鉱石を処理する際の副産物として得られる。この回収プロセスを中国が完成させ、現在世界の供給量の80パーセントを支配しているのだ。
ヘレラ氏は、「中国が確立したその回収技術を模倣し、習得することが絶対に不可欠だ」、「問題は、ガリウムやレアアースの精製・分離技術といった、これらのテクノロジー全てが元々米国で開発されたにもかかわらず、放置されてしまったことにある」と述べた。
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