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金銀高騰も生活苦で売却急増

2025/12/01
更新: 2025/12/01

米国アリゾナ州フェニックス——長年にわたり、ヤコブ氏は銀貨や銀地金を積み上げ、自らの「宝物」を築いてきた。そして、もしその時が来たなら、最も良いタイミングで手放そうと考えていた。

2025年末の価格高騰、金欠、そしてホリデーシーズンの到来を受けて、ヤコブ氏は11月18日、スポット市場価格1オンスあたり50.13ドルで売却する決断を下した。

フェニックス市内のコイン商から受け取った金額は1,400ドル以上。今年の贈り物を賄うには十分であった。

「本当は売りたくなかったんです。でも、すべてが高すぎる」とヤコブ氏(姓の公表を辞退)はエポックタイムズに語った。
「クリスマスが決断を後押しした感じです。小さな子どもたちがいて、ずっとディズニーランドに行きたがっているんです」と彼は述べた。

米国の経済状況が悪化するなか、金や銀を保有する投資家の間では、高値を利用して資産を売却し、家計を補う動きが広がっているという。エポックタイムズの取材に応じた複数のコイン商や顧客がそう語った。
多くの人々にとって、現金の必要は差し迫っており、「投資を保持すること」よりも食料や電気代などの生活必需品をまかなうことが優先されている。

アリゾナ州ナバホ郡のあるコイン商によれば、取引の4件中3件は「銀や金を売る人」だったという。

「多くの売り手が生活をやりくりするのに苦労していた」とコイン商は自身の店名を出さないことを条件に語った。彼の話では、1人の女性は歯科治療費を払うために、もう1人のシングルマザーは食費を確保するために金属を売っていたという。

少なくとも2組の夫婦が、生活費を確保するために結婚指輪を売却した。
「厳しい時代です」と商人は語る。「ある顧客ははっきり言いました。『今は売りたくないけど、売らざるを得ない』と。車の修理費とクリスマスの資金が必要だったのです」。

その男性は1オンス銀貨のコレクションを売り、2,200ドルを受け取った。
「みんなが絶望しているわけではない」と商人は補足した。「だが、この2年間、明らかに『買う人』よりも『売る人』の方が多い。とくにここ1年は顕著です。価格の高騰が原因でしょう」
「10月はこれまでで最も売り上げが良かった月でした。多くが以前から迷っていた人たちの大口取引です。価格上昇を逃したくないという心理が働いたのです。」

商人によれば、金や銀の価格が急上昇している中で売却することは「直感に反する」行動のように見える。通常、価格上昇期には「買って保有する」方が理にかなっている。
「黄金取引の格言にあるように、『安く買って高く売る』のが基本ですが、その『安定した高値』が見えてこない」と彼は話す。
「利益を出しているのはせいぜい10人に1人。大多数は『必要に迫られて』売っている。貯蓄や保険として持っていた人が多いです」

 

金と銀の市場動向

11月28日時点で金は1オンスあたり4,220.40ドル、銀は午後1時(米東部時間)に1トロイオンスあたり56.38ドルの過去最高値を記録したと、貴金属分析サイトkitco.comが報じた。

フェニックスの「サウスウエスト・コイン&ブリオン」社の貴金属業者パトリック・マッキーバー氏によれば、金と銀の市場は依然として非常に不安定で、上昇が続く中で終着点が見えないという。
「ドルの価値下落とインフレ上昇を受けて、長期保有を選ぶ人、短期高値を狙って売る人、双方が増えている」と語った。

「政府、特に中国やロシア、そして大手銀行も買い集めを隠していない」とマッキーバー氏は説明する。
「一部では金属投資は時代遅れだとか、収益性が低いと言われますが、歴史を見ると、通貨の浮沈の中でも価値を維持してきたのが金や銀です」

「今どこが天井か、誰にも分からない。見えているのは、価格上昇と堅調な需要だけです」と氏は述べた。

マッキーバー氏は現状では銀よりも金に強気(ブル派)だという。理由は、銀が産業用途色の強い金属であるためだ。とはいえ、両者ともインフレや経済的不安への有効なヘッジ(防衛策)として価値があると見ている。

「持てる余裕があるなら、金や銀は良い安全網です」とマッキーバー氏は述べた。

 

現金不足と売却の実情

オンライン買取業者Cash for Gold USA社の2025年の調査によると、10人中7人のアメリカ人が基本的な生活費を賄うために宝飾品を売却しているという。

同社は「過去1年で金価格が約45%上昇したにもかかわらず、より多くの人々が高値を利用するというよりも、生活の命綱として金を売っている」と発表した。
6月の調査では、回答者の半数以上(約1,002人)が「生活費のために金を現金化した」と答えた。そのうち68.4%が生活必需品の支払いに使用。支出の内訳は、請求書の支払いが52.6%、食料の購入が15.9%であった。

さらに45.4%が「使っていなかった、または忘れていた品物の整理」と答え、13.8%は「他人から譲り受けた」ものを売却したとした。

また、約70%の人々が、即時または将来的な家計改善のために資金を使用しており、債務返済(13.4%)や住宅購入(3.2%)も含まれる。

Cash for Gold USA共同創業者のバリー・シュナイダー氏は「この結果には驚いた」と述べた。
「金価格の記録的上昇(過去1年で1オンスあたり約1,000ドル上昇)が売却の理由だと考えていたが、実際はほとんどが生活のためだった。現在、金は1オンス3,300ドル超で取引されている」と説明した。

その他の理由としては、離婚・別居(10.8%)、失業・労働時間削減(5.4%)、医療費(3.6%)などが挙げられた。
売却資金の用途は圧倒的に生活必需品中心であり、休暇旅行(9%)、新しい宝飾品(4%)、電子機器(2%)など、贅沢品に使った人は6人に1人未満であった。

シュナイダー氏は「これは1849年の『ゴールドラッシュ』ではない。だが、この調査結果は、『職を持つ米国人ですら経済的に苦しい状況にある』ことを示している」と結論づけた。

エポックタイムズはSD Bullion社およびBattalion Metals社などの大手地金業者にも取材を申し入れたが、コメントは得られなかった。

11月18日、フェニックスのレヴィ氏は忙しい都心の地金店を訪れた。1964年前後に発行された90%銀含有の米25セント硬貨を124枚持参したのだ。若い頃から投資目的で硬貨を集めていたというレヴィ氏は、「現金が必要だから売った」と語り、1,000ドル以上を手にした。
「ずっとコンビニやガソリンスタンドなどで見つけた硬貨を集めてきました。まだ手元に少し残っています」と述べた。

エポックタイムズ記者。アリゾナを拠点に米国時事を担当。