サッカーのフランス代表エムバペが、毛沢東の肖像に自身の顔を合成したミームを巡り、中国での批判を受けて謝罪した。元NBA選手のカンター氏は「残念だ。毛沢東は独裁者なのだから」と述べ、選手が信念と競技人生の選択を迫られる状況に懸念を示した。
エムバペは10月27日夜、Xに中国語、英語、フランス語の3言語で謝罪文を投稿した。毛沢東の肖像に自分の顔を合成した画像を、お気に入りのミームとして挙げたことについて、不適切だったと認めた。エムバペの所属クラブが加盟するスペイン1部リーグ、ラ・リーガも、その後、遺憾の意を示す声明を発表した。
元NBA選手で人権活動家のカンター氏は、アメリカ政府系放送ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の取材に対し、エムバペが圧力を受けて謝罪した可能性を指摘し、残念だと語った。(動画)
「中国を公然と批判すれば何が起きるか、私は身をもって経験している。沈黙を拒んだことで、バスケットボール選手としてのキャリアを失い、数百万ドル(日本円で数億円規模)もの収入を得る機会も失った。ただ、エムバペが謝罪したことを責めるつもりはない。彼がどのような圧力を受けたのか、私には分からない。選手が自らの信念を貫くか、競技人生を続けるかの選択を迫られること自体、深刻な問題である。だからこそ、彼が謝罪を選んだことは残念だ。毛沢東は独裁者なのだから」
米下院委員会「毛沢東が独裁者だったことは事実」
エムバペが「中国の独裁者」と発言したことについて公に謝罪した後、アメリカ下院の対中国共産党特別委員会は、Xに次のように投稿した。
「毛沢東が独裁者だったことは事実である。そして、毛沢東が中国の人々にもたらした被害は、サッカー選手1人の発言とは比較にならないほど大きい」
同委員会は投稿で、さらに次のように述べた。
「中国共産党の指導者を長く務めた毛沢東は、独裁的な統治と破滅的な政策を進め、文化大革命や大飢饉、その他の残虐行為によって、数千万人の中国人を死に至らしめた。毛沢東は、1921年の中国共産党第1回全国代表大会の時から党に関わっていた。党の歴史を代表する人物であり、毛沢東が始めた抑圧の手法や、思想を理由とする粛清は、今も党に受け継がれている」
「中国共産党は数十年にわたり、中国の人々から言論や信教の自由をはじめとする基本的人権を奪ってきた。これらは、エムバペや世界の何億人もの人々が享受している権利である。エムバペはこの機会に、毛沢東の独裁政治の恐ろしい実態を語るべきである」
同委員会はまた、この一件で本当に恥ずべきなのは、中国で事業を続けるために、われ先にと謝罪する企業の姿勢だと指摘した。中国共産党こそが中国の人々を最も強く抑圧し、人権を侵害しているとした上で、党に協力する企業は、こうした残虐行為に加担し、それを当然視する風潮を助長していると批判した。
中国企業が関係見直し CCTVも試合放送を取りやめ
問題のインタビュー映像は、10月26日にインターネット上で急速に拡散した。映像の中でエムバペは、自分を「中国の独裁者」に見立てたミームに触れ、気に入っていると語っていた。ただし、独裁者の名前は挙げていない。画面には、毛沢東の肖像にエムバペの顔を合成した画像が映し出されていた。(動画)
発言は大きな波紋を呼び、中国のネットユーザーから「中国を侮辱した」との批判が殺到した。エムバペと提携する中国企業も、相次いで関係を断つ動きに出た。中国中央テレビ(CCTV)は、ラ・リーガの試合やエムバペが出場する試合の放送を取りやめ、エムバペを起用した広告も撤去した。中国共産党機関紙「人民日報」の論評欄「人民鋭評」は10月28日、「恩恵を受けながら、その相手を攻撃する」ような言動は受け入れられないと主張した。こうした批判が広がる中、エムバペ本人も謝罪した。
アルジャジーラなどの海外メディアによると、問題の映像は、エムバペが今年4月にフランスのトーク番組「The Bridge」に出演した際、番組の収録前に舞台裏で撮影されたものだった。番組側も、映像が4月の収録に際して撮影されたものであることを認めている。騒動を受け、映像は番組の公式アカウントから削除された。
発言映像は4月に撮影 今になって拡散した理由は不明
数か月前に撮影された「中国の独裁者」に関する発言が、なぜ今になって突然広まったのか。海外のネット上では、さまざまな臆測が飛び交っている。何者かが時機を見計らい、エムバペを攻撃するために映像を拡散させたのではないかという見方もある。また、中国国内の不満から目をそらすため、中国共産党当局が騒動をあおり、国外に圧力をかける手段として利用したのではないかとの声も出ている。ただ、映像がこの時期に急速に拡散し、騒動に発展した理由は、依然として明らかになっていない。
エムバペ、別の独裁者ミームには複雑な思いも
ただ、エムバペは今年9月、独裁者に見立てられることへの複雑な思いも語っていた。独裁者が何百万人もの人々を苦しめてきたことにも言及している。
フランスのスポーツ紙レキップの取材で、自身を軍事独裁者に見立てた別のミームについて、次のように述べた。
「悪気のない冗談だと受け取る人もいるだろう。でも、笑えない人もいる。歴史を振り返れば、こうした人物は実際に人々を傷つけてきたのだから」
さらに、こう続けた。
「人を殺したり、何百万人もの人々を苦しめたりした人物に、自分が重ね合わされている……。私はこれまでの人生で、そんなことをしたとは思わない」
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