THE EPOCH TIMES

<心の琴線> 異国で出会った日本の歌

2010年12月21日 07時00分
 【大紀元日本12月21日】ふと立ち寄ったコーヒーショップや食事をしていたレストランなどで、思いがけず日本の曲や歌が聞こえてくる時がある。

 経営者は明らかに日本人ではなく、日系やアジア系でもない。店も日本人客が目当てではないらしい。そんな時、私はいつも嬉しさと懐かしさがこみ上げてくるのだ。

 ずいぶん前のことだ。マンハッタンにあるレストランで食事をしていた時、坂本九さんの『上を向いて歩こう』が聞こえてきた。思わず私は、やって来たウェイターを捕まえて、「これは日本の曲ですよ。アメリカでは『すき焼きソング』って呼ばれて、一時とても流行りました」と教えてあげたのだが、年若い彼は全く知らない様子で、ポカンとして「そうですか」と答えただけだった。

 それでも私は、この土地で懐かしい日本の歌を耳にして、少々興奮するほど嬉しかった。

 上を向いて歩こう、涙がこぼれないように。

 25年前、突然に飛行機事故で亡くなられた坂本九さんの事は、今でも私の心に強く残っている。夫婦でニューヨークへ行こうと決め、引越しの準備であわただしかったころにこの事故は起こった。

 その時、ちょうど兄が私の家に立ち寄ってあいさつしに来ていて、「どこかで事故があったみたいだな。アナウンサーが何かしきりに話している」とテレビを指差して教えてくれた。テレビの音を低くかけていて気が付かなかったのだが、ニュースでは何度もこの惨事を報道していたのだ。

 日々の生活の場を日本からニューヨークへ移して25年。後ろを振り向かないように、自ら選んだ道なのだからと自分に言い聞かせても、辛い事に何度も出会うと、人ごみのマンハッタンの街角を涙がこぼれないように上を向いて歩いた経験がないわけではない。

 この街を愛し、この国を愛している。しかし、私が生まれ育った日本もそれと同じくらいに、抱きしめたいほど愛している。それは私の中で、死ぬまで変わることはないだろう。

 今、なぜか世の中が辛いことや悲しいことで満ち溢れているような気がしてならない。

 涙をこぼさず上を向いて歩き続けることは、時に苦しく、また時に滑稽でもある。ただ、そのような一途な生き方している人を、私は笑うつもりはない。

 坂本九さんの特徴のある歌声と、誰もが好きだった満面の笑顔を、海外在住者の私も含めて、日本人はこれからも忘れることはないだろう。

 上を向いて歩けば、いつもそこには大きな空が見える。九ちゃんが笑っているような穏やかなニューヨークの晴天であれば、その一日を私も笑顔で過ごせるのだ。

 そして、日本のどこかも穏やかな晴天であれば、皆、笑顔で過ごせるのだと私は思っている。

 (山崎)


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