THE EPOCH TIMES

<心の琴線> がんばれ、お母さん!そして、ありがとう

2011年02月26日 07時00分
 【大紀元日本2月26日】トイレの中から、「よいしょ、よいしょ。がんばれ、がんばれ」という声がいつも聞こえていた。

 それは、老いた母の声だった。

 人一倍がんばりやさんで、17年間、直腸ガンと戦ってきた人の声だった。

 母の体には、直腸の代わりに人工ストマーがついている。

 2年前には、胃を全摘出。しかし、すでにリンパや腹膜へも広がっていた。

 83歳という年のせいか、ガン細胞に勢いはない。しかし、それはゆっくりと、そしてじわじわと母を蝕んだ。

 「ありがとうよ。来てくれて。本当にたすかった」

 毎日、病院に通う私に、母の口からこぼれる感謝の言葉。

 私は、その千倍の思いを込めて、心の中で母に応える。

 「私こそ、お母さん、今まで育ててくれてありがとう。そして、親不孝ばかりしてごめんなさい」

 今の私に出来ることは、母に毎日会いに来て、食事を口に運び、痛む体を摩ってあげるだけ。

 末っ子で、甘やかされて育った私。でも、この残された時間で、少しでも母に恩返しがしたい。

 そして最期の時に、傍にいてあげたい。

 母はもう、食事も思うようにのどを通らず、水を口にするのがやっとである。

 今は、ベッドで自分の体を動かすこともできない。

 一日に何度も、体の位置を変えてあげる。

 まるで母は、ゆっくりと静かに消えようとしているろうそくの炎のようだ。

 そんな母も、時折、意識がはっきりとする。

 「ねえ。お願いだから、私のお葬式は一度だけにして頂戴。そして、できるだけ、質素にしてね」

 お母さん。

 自分の痛みをこらえるのに精一杯なのに、私たちを気遣ってくれてありがとう。

 母と同じだけ齢を重ねた父の目から、涙が溢れた。

 3月3日のひな祭りは、父と母の66回目の結婚記念日。

 お母さん、お願いだからその日まで、なんとかがんばってください。

 毎日、帰り際に強く母の手を握る。

 明日もまた、かならず会えますように。

 母はぽつりと言った。「しあわせだよ。皆、会いに来てくれて。お母さん、一生に悔いはないからね」

 病室のテーブルに置いていた、母の大好きな小さな植物たちも、静かに微笑んだ。

 (由美子)


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