【大紀元日本11月17日】人魚はかつて空飛ぶ海に生きていたことがありました。それはもちろん童話の国の縁側でのお話ですけれど・・・。逆鱗という「うろこ」がほんとにあるのかどうか、私はみたことも確かめたこともありません。竜という幻獣の喉元にさかさになったうろこがあって、これに触れた人は死んでしまうのだそうです。なんと恐ろしいことでしょう。
『赤い蝋燭と人魚』は日本のアンデルセンといわれた童話作家・小川未明(新潟県上越市生まれ、明治15年―昭和36年)の代表作です。人魚は海の仲間と何不自由なく暮らしているものですが、体の上半身は人のようであったので、女の人魚がふと身ごもった子供の将来の幸せを人の世の暮らしに託することを思いつきます。
「人間の住んでいる町は、美しいところだという。人情というものがあって、魚や獣よりやさしいのだとも。こうして獣たちと暮らしていけるからには、人魚の赤ん坊が人間の中に入って暮らしていけないことはないはずだ。」人魚はこう思い定めます。
そして臨月が潮のように満ちたある日、北の海鳴りが聞こえる小高い山の神社に、ひっそりとわが子を産み落としました。拾い上げて育てたのは、お宮の山の麓(ふもと)で蝋燭の商いをしている貧しい老夫婦でした。やがて大きく成長した人魚の娘は、赤い絵の具で白い蝋燭に絵を描き始めます。
誰から習ったのでもなく竜宮の海の幸(貝殻や魚や海草)を、それは上手に美しく描きました。そして不思議な噂が伝わっていきます。赤い絵の蝋燭を灯して漁に出ると、どんな暴風雨の日でも船が転覆することはなかったのです。貧しい蝋燭屋の商いは繁盛しました。
ところがある日のこと、南の国から香具師(やし)がやってきます。今はもうすっかり守銭奴のようになった老夫婦から、興行の見世物として人魚の娘を買い受けて去っていきました。人魚の娘を乗せた南へ向かう船は沈んで藻屑となり、海が大嵐になった日は多くの人が亡んでいくという噂が広まりました。
人知れず赤い蝋燭が灯るお宮を人々は恐れるようになり、蝋燭屋の商いはすっかりさびれいつしか町は滅んでしまったのです。人魚の逆鱗に触れたほんとの話を、小川未明は童話の国に咲かせました。未明自身がいとおしい長男と長女を若くして亡くした喪失感を、北国の海鳴りの中に永遠(とわ)に沈めたのです。
(そら)
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