THE EPOCH TIMES

「漢字は文化遺産」 信念を貫き、文革に翻弄された国学者:陳夢家 (2)

2010年08月29日 08時00分
 【大紀元日本8月29日】

「これ以上辱められるわけにはいかない」

 66年夏、文化大革命が勃発し、陳夢家は再度、批判の的となった。彼は何度も吊るし上げられ、数え切れぬほどの屈辱を受けた。本来の「罪」に、新たな罪が加えられた。革命烈士・聞一多(著名な詩人・文学者)を攻撃したというのである。陳夢家は授業の時に、恩師である聞一多は、困難な時期には「風呂に入らず、服も着替えず、体はかなり臭かった」と言っただけなのだが。

 陳夢家は髪の毛を「陰陽頭」(頭の毛を片側半分だけ剃り落とす髪型)に剃り落とす侮辱を受け、炎天下で長時間跪かせられ、頭にタンを吐かれた。自宅からは、苦労して集めた明清の家具や骨董の器具、そしておびただしい蔵書がすべて持ち去られた。彼と妻は、元々ガレージに使っていたおんぼろの部屋に住まわされた。当時、妻の趙蘿蕤の精神病はいっそう症状が進んでおり、二度完全に発狂したことがあるが、病院に連れて行くこともかなわなった。

 66年8月24日、北京の紅衛兵の暴行は最も血なまぐさい段階に入った。吊るし上げを受けた陳夢家は、その夜、友人の家にやって来て、憤然と、「もうこれ以上辱めを受け続けるわけにはいかない」と言った。その時、後をつけてやってきた考古学研究所の人たちに、地面に無理やり跪かせられ、大声で罵られた。その後、彼らは陳夢家を考古学研究所に引っ張って帰り、家には帰さなかった。これ以上辱めを受けたくなかった陳夢家は、その夜、遺書を書き、大量の睡眠薬を飲んで自殺を図った。しかし、量が足りなかったため、願いは叶わなかった。

 同じ日、考古学研究所のそばの東廠横町では、少なくとも6人の住民が紅衛兵に殴り殺された。拷問は昼から深夜まで続き、ブドウ棚に縛り付けられた二人のおばあさんは、棍棒や鞭で殴られた後、熱湯を掛けられ、その凄惨な叫び声は夜空にこだました。近所の人たちは、その夜の虐殺の野蛮で残忍な様を「豚を殺すようだった」と形容するほかなかった。陳夢家にもその凄惨な叫び声が聞こえたに違いない。

 その10日後の9月3日、陳夢家は亡くなった。報告では、再度の自殺による死亡であったが、殴り殺されたのだとも伝えられる。享年わずか55歳。

 道徳の喪失と人心の急変

 中共が民衆の恨み・敵視の感情を扇動した結果、陳夢家は「右派」のレッテルを貼られ、妻は発狂し、家は財産を没収され、自身は罵られ蹂躙された。豚や犬にも及ばぬ扱いを受け、絶望の中、陳夢家は自ら命を絶つことを選んだのである。誰が彼を殺したのか?当時批判の文章を書いたのは、名だたる学者や歴史家たちであった。彼らはペンネームを使って、新聞で陳夢家に濡れ衣を着せ、批判を繰り返した。中共政治の洗脳と重圧の中、彼らの思想と人格も激変していったのである。

 79年、考古学研究所は陳夢家のために追悼会を開き、「1966年9月3日、林彪や四人組の反革命修正主義路線によって迫害され、死に至らしめられた」ということになった。当時、陳夢家の迫害に参与した人たちも、この時、「騙された被害者」となったのである。一切の罪は「路線」に担わせた。まるで、彼を罵り、殴り、拘禁した人は誰もおらず、これに責任を負うべき人は誰もいないかのようであった。

 甲骨学者で史学家の胡厚宣(1911~95年)は、次のように回想する。当時、科学院の上層部が彼と歴史学者の張政烺(1912~2005年)に、陳夢家を批判するよう求めた。しかし、彼は「そんな人徳にもとることはできない」ときっぱりと断り、張政烺も応じなかった。

 ところが、やりたがる者がいたのだ。それは、その人たちが善を捨て悪に従った選択であった。ただ、脅迫を受けたからといって悪を行っていいのか?この世には良知と正義はないのか?もし、もっと多くの人が胡厚宣や張政烺のように、人としての道徳を堅く守ったなら、中共は人を粛清するような運動を推し進められなかったのではないか?そうすれば、陳夢家のような優秀な人材が犠牲になることもなかったであろう。

 中国語ブーム 正体字が復興

 文化大革命では、数千年の中華の伝統が徹底的に破壊された。ただ、幸いなことに、社会の動乱が文字改革運動を停滞させた。現在、かつて「文字改革」に参与した年配の人以外、中国には、漢字の表音文字化を唱える人はほとんどいない。多くの言語学者が、当時の漢字改革運動の誤りを認識し、漢字の簡略化を失敗であったと考えている。漢字の簡略化によって教養教育の普及率が上がったことを証明できるような証拠は何ひとつない。それどころか、漢字の簡略化によって、多くの中国人は古い書籍が読めなくなり、伝統との繋がりを断ち切られてしまった。

 歴史が陳夢家の先見の明を証明している。現在、中国では「正体字ブーム」が巻き起こっている。大学生の間では、本来の正体字を書くことが一種の「ファッション」にさえなっている。正体字は、その字形から直接字の意味を見出すことができるため、覚えやすいだけでなく、文化的な内包をも連想することができる。

 世界的にも、今中国語ブームが巻き起こっており、漢字は今後ますます注目を集めるであろう。中国の文字は人類の歴史の宝であり奇跡である。現代中国に伝わる文字は、数千年前の祖先が用いていたものと同様のものである。つまり、中国人は昔の人と文字でつながっているのである。これは、世界のその他の文化では見られない。かつて、陳夢家という人物が漢字を護るために犠牲になったことを知る人は多くないであろう。しかし、陳夢家と同じく漢字を愛し、漢字の価値が理解できる人は、今後さらに増えるにちがいない。

(完)


 
「新紀元」より翻訳編集・小松、瀬戸)


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