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9月20日、試される安倍氏の手腕、財務省内には減税先行に懸念も(2006年 ロイター/Toshiyuki Aizawa)

試される安倍氏の手腕、財務省内には減税先行に懸念も

 小泉純一郎首相の後継自民党総裁に、安倍晋三官房長官が決まった。安倍氏の政権構想では外交・安全保障政策こそ「安倍色」が浮き彫りになったが、経済政策では小泉改革の継承・強化に徹しており、当面は、来年7月の参院選で争点となる財政再建に向け、歳出削減での安倍氏の手腕が試される。

 ただ、消費税増税の具体論が来年参院選後まで棚上げされることが明確になり、財務省内からは、減税先食いを警戒する声が聞かれる。安倍氏は2009年の基礎年金国庫負担上げ財源に消費税を充てることも明言したが、参院選の結果次第では、長期的な財政健全化のシナリオが描きにくくなるリスクへの懸念も出ている。 

 一方、経済政策運営の中心は、引き続き経済財政諮問会議が担う。集団協議体制を目指す安倍政権を磐石なものとするためにも、経済閣僚のほか、カウンターパートとなる自民党政調会長人事に関心が集まっている。 

 <骨太方針と矛盾なく、着実な実行に期待>

 早くから独走が伝えられた安倍氏の選挙戦は「奇をてらわず王道を歩む横綱相撲だった」(政府筋)─。政権構想になる自らの発言で将来、自分自身を追い込むことがないよう配慮し、名目3%成長がクローズアップされると、「数値目標を公約にすることは考えていない」と微妙に軌道修正もした。

 打ち出された政権構想は、経済運営では「基本方針2006(骨太の方針)と矛盾がなく」(政府筋)、政府部内では、運用面での安倍氏の手腕に期待を寄せる。

 経済政策の柱に掲げた成長戦略では具体策が乏しいとの批判もあるが、諮問会議関係者は「大事なのは、成長力・競争力強化の枠組みの中で、諮問会議が毎年10個くらいずつ、確実に実施に移していくことだ」と指摘。着実な改革の実行こそ、小泉改革の継承者として小泉首相を超える「安倍色」と捉えれているようだ。

 <経済運営の司令塔は諮問会議、劇的に変わらないとの期待感も>

 安倍氏は経済財政政策に関して「諮問会議は予算編成の基本方針を決めていく極めて重要な会議だ。けん引役でなければならない」と述べ、首相が議長を務める諮問会議を軸に運営する考えを明らかにしている。

政策決定手法は小泉首相のトップダウン型に比べると「集団協議体制」を標ぼう。「モノゴトが劇的に決まったり、劇的に変わるという手法ではなさそうだ」(内閣府幹部)とみる。

 諮問会議の位置付けが変わらないことから「舞台をうまく回せる人は誰か。大事なのは人事だ」(閣僚経験者)など、経済閣僚人事に関心が集まっている。

 <長期的な財政健全化シナリオに暗雲>

 来年参院選での争点化が予想される消費税上げに関して、安倍氏は一貫して慎重発言を通した。新総裁として臨んだ記者会見でも「決して、消費税から逃げるつもりもないし、逃げ込むつもりもない。消費税を上げないといったことは一回もない」と述べ、2009年の基礎年金国庫負担引き上げの安定財源確保には、消費税上げも含め税制の抜本改革で対応する考えを明確にした。

 他方、優先すべきは歳出改革で、消費税の上げ幅を決めるには「不確定な因数がたくさんある」と強調。来年7月に税収の動きや医療制度改革の効果が見極められるとして、来年秋から議論を始める考えも貫き「参院選の争点隠し」との批判をかわした。

 自民党総裁選を通じて、2007年秋から消費税引き上げを含む税制抜本改革の議論を本格化させ、08年の国会に法案を提出する日程が浮かび上がった。

 しかし、足元で増税論議が封印され、経済政策の柱とする成長戦略や少子化対策など減税先行は否定できない。財務省内では「減税額が大きくなれば、その分2011年度の基礎的財政収支黒字化の道は苦しくなる」、「安定財源確保のための抜本税制改革を行うとの共通認識は崩れておらず、ロードマップを維持していこうという力は残っている」など楽観論がある一方で、参院選の結果次第では、2010年代半ばまでにらんだ財政健全化の議論が「不透明になる」と懸念の声も聞かれる。

 <好調な税収背景に歳出改革逆行の動き封じ込めへ>

 安倍氏の手腕で最初のハードルとなるのが来年度の予算編成。水面下では、好調な税収を背景に歳出改革に逆行する動きも見え出した。「歳出改革を優先する」と強調する安倍氏が、こうした機運をどこまで封じ込めることかできるかが、1つのの試金石となりそうだ。

政府部内では「(安倍氏の)財政健全化のスタンスに揺るぎはない」(複数の政府筋)との声がもっぱらだが、好調な税収は長期債務の残高縮小に充てることを基本とした諮問会議の精神が引き継がれるか注目する声も出ている。

 シーリングでは1%削減を打ち出した防衛関係費も、今後見込まれる巨額の米軍再編経費を盛り込んでいない。小泉首相が決着できなかった道路特定財源見直し問題も紛糾しそうな気配だ。歳出削減努力をさらに強めて増税幅を小さくする姿勢を明確に打ち出せるのか。安倍氏の手腕が試される。


[東京 20日 ロイター]

 (06/09/21 08:16)  





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