THE EPOCH TIMES

【エンタ・ノベル】麻雀の達人(6)-天地人-

2008年07月04日 00時00分
 【大紀元日本7月4日】

 「ロン!人和…金門橋…」

 起家の満福によって放たれた第一打が、見透かされたように下家の顔園に当たってしまった。

 「あれ!(何か様子が違うぞ…坊主だと思ってなめてかかるととんでもないことになるぞ)」 

 …それにしても、どんな裏技を使ったのか?満福は、そんな記憶を見出せないでいた。

 東家が回ってきた郭雲は、真っ赤な照明の下で目を細めながら、「善縁の始めは、得てして逆運のように思えるものです」などと独り言ともいえないことを言っている。それが、牌を掻き混ぜるたびに手元から蒸気というか得体の知れないエネルギーが熱気のように湧き上がってくる。満福は段々と眩暈がしてきた。

 すると、満福の手元の牌がいつもの倍ぐらいになっている。しかも、グニャグニャとして人肌のように温かく、牌自体が何やらぼやいているのだ。「絶対勝てないよ!」「この人たちは、無欲だから最強だよ!」「君は執着の塊だよ!」「天地人と争っても勝てないよ!」。満福はこめかみを押さえて、しばし瞑目した。「しまった…どこかでマオタイ酒でも飲みすぎたのか」。

 郭雲はさっそくに手元に14枚を揃えると、いとも簡単に言い放った。「天和!大竹林!…」。すると、満福を除いた三人が手放しで拍手している。「ヘンハオ!」「…(何が、すばらしいだ。勝負の世界だというのに…それにしても何で皆がそろいもそろって無邪気に拍手しているのか?この人たちは頭がおかしいのではないのか?)」。

 東場の三局で、親が良然に回ってきた。「溺れるものは、わらをもつかむ…」と独り言を言うと、満福をちらりと見てからニコリとほほえみ、白をはっしと切った。既に満福の手配には、積み込みで大三元に変化できる牌が揃っていたが、面前を狙って鳴かなかった。「…(何で、こちらの手配がすでに分かっているかのように切ってくるのか?)」。

 次いで南家の郭雲がツモッった。「…地和!大草原!…」。すると、満福の面前を何か雀のような鳥が横切ったような気がした。他の三人はというと、また、「ヘンハオ!」などと言いながら、無邪気に相手の手を賞賛しながら拍手をしている。何か満福は全くの蚊帳の外だ。満福は、咽喉が渇いて、何か飲みたくなった。

 見ると、既に小姐が何やら盆の上にドリンクを載せて満福の傍に立っている。「われわれからの驕りです。咽喉が渇いたのでしょう…どうぞ咽喉を潤してください」。「そ、それはどうもご親切に…(それにしても、なんで自分が何か飲み物を注文しようとするのを知っているのか?この小姐もあらかじめ用意して自分の脇に立っていたようだ)」。三人は、満福を見て無邪気に笑っている。

 人和、天和、地和の連続で、満福は精神的に動揺した。満福は、さっそく親満に近い手を積み込んですでに理牌をしようとしていたが、満福の極度の動揺を見て、まだ東場の三局ではあったが、一同は一息入れようということになった。満福が、ドリンクのラベルを見ると「雀の涙」とある。一口飲むと、それはとても冷えていたが、何やらとても苦くて甘い、「東洋のコーラ」のような、漢方薬のような味がする。

 三人は、満福が「雀の涙」を呑んだのを確認すると、それまでのくだけて無邪気な雰囲気とは一転がらりと変わり、「喫水不忘掘井人!」(水を飲むときに井戸を掘った人を忘れてはならず)と繰り返し言いながら、猛然と満福を指弾し始めた。まるで、60年代の大陸の文革を彷彿とさせる迫力に、満福は唖然とした。すると、指弾を浴びているうちに、過去に麻雀で死に追いやった人々のエピソードが眼前に浮かんできて、悔恨と自責の念でハラハラと涙が流れてきた。

 満福がひとしきり男泣きに涙すると、呼吸を測る様に、三人は「では、切ってください」という。満福が、手配を見るのだが、網膜はく離になったように真っ黒で何も見えない。目の錯覚と思って、あたりを見回すが、店内の様子がはっきりと見えているので、眼病ではないようだ。満福は焦った。盲牌をしてみたが、それでも指先で全く何も読み取れない。下手に切ると、この三人には必ず当たることが分かっていた。

 三人がまた促す。「早く、切ってください」。満福の全身から脂汗が噴き出した。「切れません…牌が見えないのです。すみませんが、まだ東四局ですが終局に…」。

 (続く)
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