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出場資格年齢の疑惑の渦中にある何可欣選手=2008年8月18日、段違い平行棒で獲得した金メダルにキス(AFP)

北京五輪、金メダル1個獲得に100億円!?=問われる中国の「挙国体制」

 【大紀元日本8月30日】 17日間の会期を終え、北京五輪は終了した。中国国内に潜む危機を回避するために強行した北京オリンピックは、400億ドルを拠出し、史上最高額を記録した。開幕式の「口パク事件」「偽の足跡花火」「ニセの少数民族の子供」「ランラン(朗朗)のニセピアノ演奏」、そして世界を呆れさせた「体操選手の年齢詐称疑惑」「観客席のさくら」、はたまた「劉翔の八百長の棄権」と、偽演出のオンパレードで、今大会は「ニセモノ・オリンピック」とも呼ばれている。

 今大会では、中国代表団が最多の金メダルを獲得し、「挙国体制」の勝利だという論調が中国国内のメディアを賑わせた。しかし、多くの専門家は「挙国体制」はスポーツの健全な発展を図ることはできず、更に選手の心身両面の健康を損なう恐れがあると指摘している。

 新華ネット8月22日の報道によると、北京オリンピック組織委員会の顧問は記者会見で、「(最多の金メダルが取れたことは)挙国体制の有効性が証明された証し」と述べた。「挙国体制」について、当局は「国力がまだ弱い状況下で、全国の人的・物的資源をある分野に集中させる制度」と解釈している。つまり、大会でメダルを取れるように、社会の限られた資源を総動員して、数少ないエリート選手を養成するということだ。

 アテネオリンピック以降、中国の「挙国体制」について疑問を呈する人が増えてきた。つまり、「挙国体制」は確かに中国チームに良い成績をもたらすかもしれないが、一方で選手に逃げ場のない重圧を与え、しかも国民全体の体力向上には繋がっていない。また、選手を食い物にするスポーツ官僚を生み出す温床にもなっており、その体制自体がオリンピック精神に違反しているのだ。

 金メダル一個獲得に100億円!?

 数年前、金メダル一個獲得するのに7億元(約100億円)という説が広まり、社会に波紋を投げかけた。国家体育総局体育社会科学研究センターの鮑明暁主任が、これに修正を加えた。同主任の話によると、中国政府はオリンピック選手一人あたり約4~5百万元(約6千万‐7千5百万円)の資金をかけているという。アテネオリンピックの時には、中国選手団400人に16~20億元(約240億‐300億円)の費用がかかった。当時獲得した金メダルは32個だから、金メダル1個獲得におよそ5~6千万元(約7億5千‐9億円)がかかった計算だ。しかし、この数字には選手の初期の養成費用が含まれていない。

 中国メディアの報道によると、現在中国各地の少年体育学校には約20万人が在籍しているという。一人当たりの年間訓練費用が2万元(約30万円)だとすると、20万人で年間40億元(約600億円)かかる。少年体育学校では、選手一人が卒業するまでに大体8年間かかるため、320億元(約4800億円)必要である。今回の北京五輪で取得した50枚の金メダルで計算すると、一枚あたり6~7億元がかかっていることになる。これは無論、他の国では考えられない数字である。

 海外では一般的に、オリンピック選手は選考制度によって選ばれているが、中国など共産主義の国ではエリート養成制度が採られている。西側諸国の場合、観賞価値があって金儲けのできるスポーツにプロ選手がいるほか、多くの種目の選手は普段、他の職業に従事し、オリンピック選考試合のときだけ集まって強化訓練を受ける。そのため、オリンピックに投入する資金は少なくて済む。

 人口と金メダルの比例を見ると、西側諸国の場合は100万人に1人がオリンピックの金メダルを取得しているのに対して、中国の場合は2000万人に1人という割合になっている。同じアジアに位置する韓国に比べても、20倍の差があり、その差は歴然である。

 ピラミッドの頂点と底辺、その運命は雲泥の差

 ここ20数年来、中国共産党政権はその権力を強化するため、スポーツを利用して民族主義を煽り、国民の結束を図ろうとしてきた。有名なスポーツ選手の中には、積極的にコマーシャルに起用され、富を手に入れた者も少なくない。

 陸上110メートル障害走の劉翔・選手は、2004年アテネオリンピックで金メダルを獲得した後、コマーシャルの契約金が当初の3~4百万元から、最近では1000万元まで飛躍的に上昇した。2007年にはナイキを含む14のメーカーと広告契約を結び、昨年の年収は1.6億元(約24億円)に達した。

 中国において、これはよく見られる現象である。劉翔のコマーシャルは中国陸上協会管理センターによってマネジメントされ、契約金の交渉、コマーシャルの制作とメディアの選定は全部、同センターが一手に引き受ける。収入は両者が割合に応じて分ける。

 今大会で劉翔は突如レースの途中で棄権し、そのため一部のスポンサー企業は契約を打ち切った。棄権したために、劉翔は1億元を超える損失を蒙り、スポンサー企業も30億元の収益減になると見られている。

 劉翔にとって、これはとても残念な結果ではあるが、何と言っても彼はかつてのオリンピック金メダリストである。一般の選手が想像もつかない程の大金を手にしたのであり、彼は非常に恵まれた選手だったということができよう。

 ピラミッドの頂点に上り詰めた劉翔の下には、約20万人の選手がおり、彼らの多くは各種の体育学校で訓練を受けながら、金メダルを夢見ている。49年の歴史がある北京の什刹海体育学校には、8種目、600人の選手が在籍しており、彼らの訓練費や学費、寮費は合計一人当たり毎年3万元、全部国が負担しているという。成績が優秀な学生は省レベルのチームに入り、国家登録の選手になる。これが中国におけるプロ選手の養成方法であり、生徒らはオリンピックの金メダルに人生を賭けて生きる。しかし、大半はピラミッドの最下部に埋もれたまま、選手人生が終わってしまい、彼らのこれからの運命に関心を持つ人もいない。実際、体育学校を終了した人たちは、普通の人より就職が困難である。

 過酷な訓練プログラム

 「挙国体制」の下で選ばれた選手には、子供も含めて地獄のトレーニングが待っている。表彰台に上がるときの栄光は羨望の的だが、それに達するまでの訓練は想像を絶するほど過酷なのだ。

 新華ネット1月7日の報道によると、国家体育総局が北京市と湖北省の選手の収入に対して調査を行った結果、平均収入は777元だけだったという。サッカーやバスケットボールなど認知度が高く、市場化された種目の選手のみが高い収入を得ている。しかし、これら恵まれた選手の数は、全体のほんのわずかである。

 「ニューヨーク・タイムズ」6月28日付記事では、アテネ五輪で金メダルを獲得したカヌー選手・楊文軍の話を紹介している。楊は、現在の生活に我慢できず、カヌーから引退する努力をしていると話した。肝臓病を抱えている楊は疲れやすく、過激な運動が彼の寿命を短縮させる恐れがあると言われているが、引退を許されていない。楊は幹部から「北京オリンピックに参加しなければ、年金を取り消されるぞ」と脅かされたという。

 あるスポーツ記者はブログで、福建省体操チームを取材した際に目にした状況を明かした。「まだ子供の彼女の掌は皮が剥けており、肉が裂け、血が滲み出ていた。どこが肉なのか、どこがたこかも分からない」とその凄まじい様子を語っている。さらに、この子供はコーチの許可がなければ、記者の話しかけにも応じられず、特別な事情がない限り、家に戻ることも親が面会に来る事も禁じられている。子供たちは、たとえ盲腸の手術を受けても、三日後には練習を再開する。また、試合のために女の子は生理を遅らせる薬を服用しなければならない。

 女子一万メートル世界記録保持者の王軍霞は日記の中で、「あなたはあまりにも酷で、まったく人間性がない。もう我慢できない。私たちは人間であり、畜生ではない。私たちは愛情がほしい。自由がほしい」とコーチの馬俊仁に訴えている。90年代に陸上競技で数々の世界記録を出した「馬軍団」は、1994年12月12日に「クーデター」が起こり、王軍霞を始めとする選手らが突然、チームを離れた。その理由は「強化訓練でのコーチの暴行と暴言に耐えられない」としている。2002年、馬軍団のトップランナー董艶梅は自殺未遂を図り、中国社会に大きな波紋を広げ、馬軍団の訓練の残酷さも徐々に人々に知られるようになった。

 女子ホッケーは今大会で銀メダルを獲得したが、その日常の訓練はキャプテンの陳朝霞が「地獄のトレーニング」と呼ぶほど厳しいものだったという。選手の張海英は試合中、顔に大ケガを負ったが、簡単な手当てを受けてすぐに試合に戻った。ボールが当たり一度に5本の歯が抜けた選手も退場せず、試合を続けていた。

 引退選手の困窮

 中国体育新聞の報道によると、中国には30万人の引退選手がおり、その80%が失業や貧困に苦しみ、また厳しい訓練で負ったケガや健康問題に悩まされている人もいるという。

 吉林省女子重量挙げチームの鄒春蘭はかつての全国チャンピオンで、金メダル7個を取ったことがあり、世界記録保持者でもあった。輝かしい成績を残した彼女は引退後、公衆浴場で垢すりをし、日々の生計を立ててきた。彼女には喉ぼとけ、かすれ声、不妊症などの後遺症も現れたという。

 鄒春蘭は「ニューヨークタイムズ」の取材に対して、「私と同じ窮地に陥った多くの選手は、援助を得ていない。私たちは社会から取り残され、教育を受けたこともなく、子供を生むこともできない。私たちは一生面倒を見てあげるという甘い言葉をかけたあの体制に騙された」と心境を吐露している。

 選手は自分の健康と人生を代償にして、金メダルに賭けてきた。しかし、金メダルを取れる人はほんの一部であり、極めて少ない。彼らは人生の最も良い時期をスポーツに捧げ、スポーツのほかに生きる術を何一つ身に付けていない。メダルの色が褪せれば、とたんに彼らは生活苦に陥ってしまう。

 マラソン世界チャンピオンだった艾冬梅は、生活に困ったためにこれまで獲得した15枚のメダルを売却することにした。彼女は「スポーツに従事したことを後悔している。成績を残したが、名誉はチームのもの、賞金はコーチのもの、ケガだけが私のものになった。知識もお金もなく、たくさんの傷を抱えただけだ。子供のミルクを買うお金もない」と窮状を訴えた。

 国民の体力の低下

 どの国よりも金メダルを多く獲得しようとした中国人の体力は、年々落ち続けている。特に青少年の場合、肥満人口はここ10年で激増している。統計によると、中国人の40%が体重オーバーで、そのうち7000万人が肥満と診断されている。向こう10年間で中国の肥満者は2億人を超えるだろうと専門家は分析している。

 体力低下の原因は、運動量の減少、スポーツ器材と運動場の不足にあると専門家は見ている。人民ネット8月11日の報道によると、中国では平均1万人が6.58の運動場を有しており、一人に1.03平米の運動場を有しているのに対して、アメリカ、日本などの先進国は平均1万人が200の運動場を有しているという。

 更に、中国人のスポーツにかけるお金は一人当たり3ドル未満であり、アジアの平均額12ドル、世界の平均額36ドルと大きな開きがあり、欧米先進国の平均額300~500ドルよりはるかに下回っている。このことからも中国国民は、スポーツの挙国体制から何のメリットも得られなかったことが分かる。

 挙国体制の受益者

 挙国体制である以上、選手の「所有権」は国に属し、彼らのビジネス活動から得た収入は、自分の分のほか、全部国庫に納めるべきである。ところが、選手の収入に対しては明確な配分体制がなく、ほとんどの収入は選手と選手を取り巻く人たちの手に入ってしまう。一般的に、収入の50%は選手、残りはコーチ、体育局と選手所属の体育管理センターまたは体育協会に割当てられる。そのため、体育管理センターなどの管理機関が、選手のビジネス活動を後押しするような現象もある。挙国体制を支えてきた納税者には、実は何のメリットもなく、一握りの人たちがこの体制から受益しているだけだ。

 (08/08/30 11:17)  





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