中国伝統文化百景(4)

盤古の天地開闢の次元や時期などに関する考察

2015/11/27 07:00

 盤古の天地開闢について、前記の諸記述は基本的かつ主要なものであるが、それ以外に各時代の著書や地方誌にも数多く見られる。それらの内容を本文で全て羅列することは困難であるが、概して言えば大同小異であり、外形が異なっても中身がほぼ一致していると言えよう。

 記述があるもの以外に現存(または廃墟となったものや未発見のもの)する廟などの関連文化財、とりわけ民間で代々口承している部分については、現段階ではその全容を把握できていない。しかし、これまで公表された資料や情報から判断すれば、これらの部分は内容や性質においてかなり類似的であり、実質的な差がないのである。

 それゆえ、以下における考察は主に前に言及したものを主材料とし、それ以外のものを参考情報としたい。

 中国において盤古に関する神話伝説は数々があり、いろいろな特徴がある盤古が登場しているため、その明晰なる全貌を実に把握し難い。とはいえ、もし膨大な情報を濃縮することができれば、混沌たる人物像が明晰化できるし、その主体と本質も自ずと顕現することもできるのである。

 以下では複雑な盤古神話を内容、時間、属性、意味などの視点から考察し、その人物像の解明を試みたい。

1、時間軸から盤古神話を考察する

 盤古の天地開闢の神話を発生順から整理すれば、次の幾つの段階に分けられる。(1)「宇宙誕生以前」、(2)「天地開闢と天地形成」、(3)「死による物化」、(4)「人世誕生」)。更に細かく分ければ、次のようになる。

(1)の1、天地開闢前の無形で混沌たる太始状態。

(1)の2、天地開闢以前の陰陽・四時・万物なしの寂寥たる無形な宇宙。

(2)の1、盤古の成長、鑿と斧で天地を切り開く、二気の上昇、天地の形成、天地開闢の成功。

(2)の2、天地に万物が含まれる。1万8千年で万物が溶け込む。金・木・水・火・土の混生、青・黄・赤・白・黒が溶け込む。上は天になり、下は地になり。星・石・雨・泉・海の形成。

(3)の1、盤古の死による身体の分化、体の各部分はそれぞれ大自然の一部になる。

(3)の2、盤古夫婦が陰陽の始めになり、盤古の身体が五岳・江河・風・雷・稲妻・晴れ・曇りと化す。

(3)の3、盤古は龍の首に蛇の身、動くと風雨・雷電・昼・夜となる、体が山林・江海・淮河・草木と化す。

(4)の1、混生の二神、天地経営、時空の無限大、陰陽・八極・万物・人間の誕生。

(4)の2、卵形の天地、盤古の誕生、1万8千歳、天地分離、陰陽形成、一万八千年を経て大成長、三皇誕生、数の形成、天地の間に9万里の空間が形成。

(4)の3、二義未分・混沌無形、天地・日月無き卵形の宇宙、盤古真人いる、天地の精、元始天王と号す、八劫を経て両儀が分かれ、二劫を経て太元玉女誕生・太元聖母と号す、元始君が太元玉女と結ぶ、陰陽調和、一劫を経て13人の天皇を生む、治めて3万6千年、九光玄女の太真西王母、西漢の夫人、天皇・地皇・人皇の誕生、八帝と三王の誕生。

 以上は混沌たる天地から盤古の誕生、天地の開闢、万物創造、人世の形成という全過程が明らかになる。以上の内容は簡略化すれば、以下のようになる。

第1段階  天地開闢以前の混沌状態

第2段階  盤古誕生 天地開闢

第3段階  死後、身体が万物と化す

第4段階  万物の形成と人世の誕生

2、 盤古神話で注目すべき四つの問題

盤古の天地開闢の神話は、中国思想の宇宙観および中国文明史と次のような対応関係にあり、一体化している。

盤古誕生以前の宇宙  ←→  混沌たる元始

盤古誕生と天地開闢  ←→  陰陽・天地の形成

盤古の死による物化  ←→  天地間の万物の形成

盤古死後の人世誕生  ←→  三皇五帝・人世の出現

 天人合一などの中国思想から見れば、これらの対応関係はいかなる意味をもつのであろうか。以下の四点は注目すべき盤古神話の真髄であると考えている。

(1)神の世界から人間の世界へ。混沌の元始宇宙から、盤古の誕生・天地の開闢・万物の創造を経て人世の出現に至るまでは、実は、同じ時空で行われたものではなく、高次元から低次元へと次第に展開されていくものである。すなわち、盤古の天地開闢の神話の始点から終点までの全過程は、神以前の世界→神誕生の世界→神創造の世界→神不在の人間世界、という高次元から低次元へと次第に形成されていったものである。

(2)無から有を生む。無生命の混沌状態から陰陽という対立する二要素が形成し、そして盤古が誕生し、天地開闢や万物創造が始まるわけである。すなわち、盤古の天地開闢の過程は、無→陰陽→神→万物・人間という過程なのである。

(3)盤古は偉大な神であり、宇宙、天地、万物、人世、人間が創造された。すなわち、彼の意思と行動により低次元にある世界のすべてが創成されたのである。

(4)盤古の身体が自然の万物に転化。盤古の死後、彼の身体はそれぞれ低次元の万物に転化したのである。しかも、この物質不滅のプロセスは単一の次元で完成されたのではなく、複数の次元で展開されたのである。

3、まとめ

 老子は『道徳経』で宇宙の創成について次のように論じる。

 物有り混成し、天地に先だつて生ず。寂たり寥たり、獨立して改まらず、周行して殆らず、以て天下の母と爲す可し。吾、其の名を知らず。之に字して道と曰ひ、強ひて之が名を爲して大と曰ふ。(『道徳経』)

 この論は宇宙創成の原理を述べたものであり、道家の宇宙観の基本と思われる。

 以上の考察から見れば、盤古の天地開闢神話には、老子の宇宙創成論をはじめ、道家の論理が随所存在している。たとえば、「道生一、一生二、二生三、三生万物」(『道徳経』)という生成論、異なる空間に異なる生命が存在する多元の宇宙観や生命論、物化の思想、等々である。すなわち、盤古の天地開闢の神話は道家思想と同じ源であり、それと一体化している。換言すれば、この盤古神話は空中楼閣ではなく、道家思想の基に建てられた堅固な中華文明の大廈なのである。

 本文は、盤古の天地開闢の神話の文化的源流やその意味について探り、とりわけそれが道家の宇宙観との一体関係を言及し、先行研究で取り上げなかった四つの注目すべき問題点を提起し、それらは盤古の天地開闢神話の神髄であると指摘した。

 しかし、盤古神話の中に潜んでいる歴史の真実性および神話の文化的影響や現代における意義等々、より深く考究すべきことについては論及できなかった。これらは今後の課題とし、連載後半の話題とさせていただきたい。

(文・孫樹林)

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