[-物語-]見知らぬ人

仕事で出張をする度に、「社会の治安がよくないから泥棒などに気をつけてね」と妻はいつも私に言ってくれる。
出張に出たある日の夜、私は当地のある宿泊所(一部屋に大人数が寝泊りする安い宿)に入った。案内された部屋には、私の前にすでに1人の見知らぬ客がい
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た。その客は太っていて、テレビのサッカー中継を真剣に見ていた。彼と挨拶を交わし背広を脱ぎ、私はドアに近いベッドで横になって本を読み始めた。
しばらくすると、テレビの音が小さくなり、そして周りが明るくなった。私は振り向くと、テレビを見ていたあの客が部屋の電気スタンドを私のほうに持ってきていることが分かった。
そして、「よく見えますか?」と彼は河南省の方言混じりで私に尋ねた。
「いいですよ。よく見えるから」と答えながら、私は心が暖かくなった。しかし、すぐ妻の言葉が頭に浮かんで、私は思わず会社のお金が入った鞄を手にし、「気を緩めない、気を緩めない」と考え直した。
その後、いつの間に私は眠りに入った。
それから、手元の鞄をなくした夢を見た。冷や汗をかき、私は目覚めた。
明け方ごろ、同室の人は静かに起きた。
しばらくすると、彼はひそかに私のベッドに近づき、そして腰を下ろした。
寝たふりをした私は、びくびくしながら緊張し、「異常事態」に構えようとした。
しかし、再び腰を上げた彼の手にあるのは、一冊の本だった。彼は私が夜読んでいた本が床に落ちていたので拾ってくれたのだ。
彼の親切にまた感激した。しかし私は鞄を握る手を緩めなかった。
その後、彼は自分の荷物をまとめ、部屋を出ようとした。
部屋を出た後はドアが自動的にロックされるため、彼はドアストッパーを差し込んでから、部屋を静かに出て行った。
朝の強い風に吹かれて閉め切っていないドアがすぐに開いた。
ドアを閉めるため、仕方なく私は起きようとした。
その時、彼が戻ってきた。
彼は再び、部屋の外側から開いたドアの手すりを引っ張り、ドアを閉めようとした。
でも、彼はすぐにそれをやめた。
ちょっと躊躇ってから彼は再び動き始めた。
鞄から取り出した一枚の新聞をドアの下に敷き、そして彼は静かに部屋の外側でドアを閉め切った。
彼が躊躇った原因は、どうやらドアを閉める音にあったようだ。
彼は去って行った。
ずっと寝たふりをしていた私は、鞄を握る手を緩め、そして心が熱くなった・・・
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