THE EPOCH TIMES

天地を覆す北京への送水計画

2010年10月11日 08時31分
 【大紀元日本10月11日】「昨夜、村の全員がそろって一緒に最後の晩餐を食べた。二度と故郷に戻ることはない。みな悲しみに沈んでいた」。9月30日、湖北省丹江口市の499村6万人が村を離れ、遠方に移転し始めた。まもなくここにダムが建設されるため、これらの村は170メートルの水底に沈むことになる。水不足の首都北京に送水するためのプロジェクトの一環だ。

 同じような「ダム難民」と呼ばれる人たちは、湖北と河南の両省で33万人に上る。

 「南水北調」プロジェクト

 中国政府は、全国の水資源を再分配することを計画している。計画は、河や三角州で毎年広範囲にわたって致命的な水害が発生している南方と西部の雪山から、乾燥した北京へ水を引こうとするもの。深刻な水不足にあえぐ北方平原部に水を送るため、運河、トンネル、用水路で構成された数万キロの水利網が設計された。

  秦の時代の万里の長城を連想させるプロジェクトだ。

 「ほかの国では、このような計画が成功したことはない」。中国問題専門家で環境学者であるオーヴィル・シェル(Orville Schell)氏が、ロサンゼルスタイムズ紙9月29日付けの記事で、この計画は中国の水道管を全て引き直すことに等しいと批判している。

 「南水北調」と名付けられたこのプロジェクトは、東線、中央線、西線の3本の送水路からなる。中央線は長江支流から水を引き、用水路を通って3省を跨ぎ、黄河の地下を通って北京に水を届ける計画である。汚染が深刻化した黄河の水はすでに飲用に適さないため、黄河の地下に幅300メートルの地下用水路の工事を始めている。今回設計された送水路は地勢の高低を利用しているため、ポンプを必要としない。現在、中央線プロジェクトは更に東の天津港へ向かって進められている。

 だが、中国環境保護活動家たちは、プロジェクトによる河川の生態バランス、魚類、鳥類に対する悪影響や、中国文明の発祥地に対する破壊行為、33万人の強制移転などに対し、強い憤りを示している。

 「彼ら(政府)は他の地区の水を奪い、北京へ送水している。だが、このような行為は通用しないだろう」と、中国の水利問題に注目する民主活動家の戴晴氏は批判した。

 戴氏の考えでは、中国南方は北方が必要とする量の水を供給することはできず、送ることができたとしても汚染されていて使用できない可能性があるという。「事実、東線は汚染の深刻な京杭運河を通った有毒な水で、農業用水に使用できるかどうかも分からない。政府はこの事を知っているはずなのに」と批判する。

 また、「北京を主要な経済と工業中心都市に発展させるべきではなかった。北京は中国の政治と文化の中心であり、人口を600万人以下に抑えていれば、水不足の問題は現れなかった。だが、現在の北京は、多くの政治家や不動産屋の利益が絡んでいる」と同氏は指摘している。

 現在、北京の人口は1700万人を超えている。40年後、その数は倍になると予想されている。

 浙江省杭州市から北京市へ流れ込む東線は大部分が京杭運河を経由する線で、2013年の完成が期待されている。一方、中央線は2014年の開通を予定。長さ約1200キロ。更に延長されるようだ。西線は現在、南西部に位置する青藏高原からの送水を計画中。だが、今のところ東線と中央線の赤字や資金遅れのため、建設されるか未定の状態だ。

 同プロジェクトは大規模な人口移転という難題も抱えている。十分な水量確保のため、中央線の起点である湖北省丹江口ダムの高度が引き上げられた。このため33万人を移転させる計画が進められている。

 今回、政府は三峡ダムプロジェクトで民衆から受けたような抗議を回避するため、補償レベルを引き上げ、新設された移転先の村には学校、診療所、商店およびコミュニティセンターを配備したという。

 深刻な汚染は水不足の解消を困難にしている

 英ガーディアン紙は、「南水北調」について、「深刻な汚染のため、どれほどの代償を払っても中国の水不足は解決できない」と伝えている。

 京杭運河沿線を走る東線プロジェクトの大部分の区間は汚染が深刻なため、浄化処理後の水も使用できないレベルだという。426カ所に及ぶ汚染制御プロジェクトはすでに完工間近だが、プロジェクト主任である張基尭氏は現地メディアに対し、水質を確保するためには更に長い浄化設備を通す必要があると伝えた。

 つまり水質問題がプロジェクトの延長とコスト増加を引き起こしているのだ。同プロジェクトは2002年に着工し、本来2007年には運用開始するはずだったが、中国国内メディアでは、今年初め、東線プロジェクトは2013年に開通するだろうと予想していた。

 これは同時に、東部沿海にある生産地帯の深刻な汚染を反映している。東線水域の3分の1の中にある1万カ所に及ぶ製紙工場、ビール工場、化学製品工場、その他の汚染源を閉鎖したにもかかわらず、水質は政府が要求する中レベルにも遠く及ばないのが現実だ。このため、天津市では給水需要に応えるため、海水淡化プロジェクトに着手している。

 現在直面しているこれらの問題は、計画者が水質浄化コストを過小評価し、あるいは政府が必要な措置を軽視したためと思われる。

 三峡プロジェクトでも類似の水質問題が存在した。中国政府が関心を持つ主な問題は量であり、質ではない。政府にとって重要なのは、北方平原の地下水位下降によって首都北京と一部の主要農業地域が脅かされていることだ。

 政府は目前の水不足解消のため、今年6月に河北省の農田から2億立方メートルの水を北京に引いた。

 続く汚染と不安定な気候からして、これらの過激な措置でさえ中国の水不足問題を解決することはできない。そして、これによりもたらされる環境汚染は、中国経済発展の代償として間違いなく悪化していくことだろう。

(翻訳編集・坂本)


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