THE EPOCH TIMES

南北の2・26文化交流に見る怪奇

2008年03月01日 13時52分
 【大紀元日本3月1日】2月26日は、日本国内の知識層ですぐ連想されるのが、昭和11年の2・26事件だろう。隻眼の魔王と異名を取った戦前の思想家・北一輝の「国家社会主義」に傾倒した旧陸軍の若手将校らが、当時の民主政治の最後の中核となっていた高橋是清蔵相など政府の要人を軍事クーデターで抹殺した血腥い昭和の事件だ。
 
 それ以前の昭和7年に勃発した5・15事件で、政党政治の旗手であった犬養毅首相が暗殺されるに及び、日本の民主派は軍部に牛耳られる流れとなり、それが満州事変から太平洋戦争へと国民総動員への歯止めが掛からなかったことは、軍事独裁政権の苦い教訓として今も記憶に残り、国内の識者にとりあげられること久しいものだ。

 この因縁の日とも言える2月26日、南北朝鮮に分かれる半島では、実に奇妙な事件が同時に起こった。南では、米国のニューヨークに本拠を置く「神韻芸術団」が、在韓中国大使館の妨害工作によってKBS関係者が委縮し、ホールの貸し出しを一方的に契約撤回し、釜山公演が中止に追い込まれたのだ。一方の北では同日、同じニューヨークに本拠を置くニューヨークフィル・ハーモニー楽団が、ピョンヤンで「新世界」などを演奏し、大成功を収めたのだ。

 これは一体どういうことなのであろうか。まず「神韻芸術団」なるものは、米国の市民権を取得した団員らが、「共産党のプロパガンダなき純粋な中国の伝統芸術」を標榜して演技するもので、中国共産党の伝統思想の否定に真っ向から対立するものだ。これが、大使館関係者の神経に触ったことは、北京の政治思想からして想像に難くない。

 では、一旦契約を締結しておきながら、公演の直前にその破棄を通告してきた「KBSビジネス」のイ・ビョングスン社長とは一体どのような人物なのか。彼は、慮武鉉政権時代に青瓦台の肝いりで現ポストに就任したバリバリの「親北・太陽政策支持派」として知られる人物だ。では、なぜ親北派の彼が、大使館の「中韓関係が険悪になる」の脅しに負けてしまうのか。

 ここに北京の極東戦略が見え隠れしている。即ち、北京は台湾に対しては武力による「洞喝」を迫るが、半島の北には経済援助をする一方で、南には「親北派」を増殖させ韓国の国論を分裂させ、政治的な圧力を掛けているのだ。現に、韓国の教職員の約20%を占める「全教組」は、反米親北を支持する潜在的な転向組だと指摘されている。

 では半島のこれら弱腰外交は、単純に北京がしくんだ政治的圧力のみで成立しているのかというとそうでもない。ソウルのホテルなどに行くと、若い20代の韓国人男性が、迷彩服に身を包んで飲食している姿をよく見掛ける。彼らは、好き好んでミリタリーマニアをやっているわけではなく、2年2か月という国民の徴兵義務に応えているのだ。

 即ち、韓国は、台湾や日本といった海一つ隔てた戦略環境とは違い、北や中国とも地続きなのだ。北の兵力は100万人、中国は陸軍だけでも160万人はいる軍事的圧力が、潜在的に韓国に掛かっており、まだ北とは「停戦」協定は締結されておらず、休戦の状態だ。その38度線を境に睨み合った独特の緊張感は、陸続きで北の戦車がソウルに乗り入れた朝鮮戦争当時のトラウマがまだ南の民衆の記憶にあって、その忌まわしさは日本人や台湾人には分りづらいものがある。

 南でこのように、中国の伝統文化復興を標榜する「神韻芸術団」が公演を中止された一方で、北ではニューヨークフィルが、ドボルザークの「新世界」、米国国歌「星条旗よ永遠なれ」、北がアレンジした「アリランの歌」などを平壌で演奏して、労働党の幹部ら出身層の良い人たちから拍手喝采を受けた。北京にとって、米国は世界戦略上の当面のライバルであり、北はその盟友なはずであるのに、なぜ北京はそれらが結びつく「芸術外交」を初めて黙認したのだろうか。

 そもそもニューヨークフィルの平壌公演は、北のキム・ゲグァン外務次官が昨年10月に米国側に打診してきたのだという。この時期が微妙だ。毎年12月には、全世界の自由主義圏で「北朝鮮人権週間」があるので、脱北者の衝撃証言や拉致問題などが報道を通して全世界を駆け巡って、北は所在がなくなるのだ。これを米国の代表的な芸術団を呼ぶことで、友好ムードを醸し出して包囲網を緩和しようというのだ。

 第2に、公演が2月に行われたことだ。米国は毎年4月に「世界のならず者国家」のリストを公表している。北は、これの指定から解除されて、人権問題の世界的包囲網を緩和してもらいたいのと同時に、日本など自由主義諸国の経済制裁を解いてもらいたいのだ。なにしろ、万景峰号が日本から運ぶ松坂牛などの贅沢品は、党の幹部と軍の幹部の忠誠心をとりつける必需品なのだ。

 第3に、拉致問題で失速した日本の「親朝派」に文化的な契機を境に息を吹き返してもらいたい狙いもある。日本にはかつて、「拉致問題は、北の仕業ではない」と国会で咆えて、警視庁の捜査を遅らせた社会党の大物代議士がいたものだが、小泉元首相の9・17訪朝を境にもろくも崩れ去った経緯がある。

 北はどうも「人権問題」と「経済制裁」で酸欠状態になっているようだ。また、金総書記自体が、今年の2月16日で満66歳を迎え、次期政権を「正哲王子」など次世代にクリーンなイメージで受け継がせたい金王朝のお家事情もあるだろう。今回のニューヨークフィル招聘は、その第一の盟友の延命措置として北京が一時的に認めたものだろう。世界の警察官の打撃を避けるため、まだまだ北には「赤い先兵」として、北京の世界戦略上の最前線で働いてもらわなくてはならないからだ。 

 
関連キーワード

関連特集

^