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漢方薬を処方する医師=2005年5月、北京から120km離れた天津で(Photo by China Photos/Getty Images)

中国:漢方医薬存亡の危機、激化する存続論争

 【大紀元日本11月29日】近年、日本と欧米社会では漢方医学に対する関心が高まっている一方、漢方医学の発祥地である中国では、一部の科学者が漢方医学は非科学的であると批判し、漢方医資格制度を取り消し、漢方医学廃止論まで主張している。これに対し、中国の伝統医学の行き先を懸念する漢方医学の支援者らは、インターネットなどを通して、漢方医学を振興するよう呼びかけている。漢方医学の存続か、廃止かの論争は中国では日増しに激しくなっている。

 ○韓国の世界文化遺産に傷ついた中国の国民感情

 2006年2月、中国伝統医薬の世界文化遺産申請委員会の専門家グループで、漢方医学の理論、養生、診察法、治療法、処方、漢方薬、鍼灸と民族医薬など合わせて8つの内容を、中国無形文化遺産の中国伝統医薬分野の第一陣申請名簿に入れた。

 当時、このような漢方医を「保護」する動きは漢方医学界の賛同を得たわけではない。多くの漢方医師は、漢方医がまだ「遺産」になるまで落ちぶれていないと軽々言い出した。

 しかし、同年10月、 韓国がその医学古典籍「東医宝鑑」を世界文化遺産に申請するニュースは中国国内で報道された際、一気に国民感情に火が付いた。「『端午の節句』はすでに奪い去られ、まさか漢方医も奪い取られるか」と多くの人々がインターネット上で心痛の発言を飛び交わした。

 事後、韓国は「東医宝鑑」だけを世界遺産に申請して、韓国医学全体を世界遺産に申請するのではないことが分かったが、韓国国家保健所に務める漢方医師許雲栄氏は弊紙の取材で、韓国医学の世界遺産申請の件について「漢方医学は中国から伝わって来たもので中国は祖先だ。しかし今の中国人が漢方医学を全く重要視しておらず、西洋医学を重視している。それでは自ら宗主国の地位を放棄したに等しい。韓国は伝統医学を重視し、民衆もたいへん韓医を信頼している。もちろんこれも韓国が如何によくやったと言うのではない。もし中国が共産党に統治されていなく、文化大革命を経ていないのなら、漢方医学は中国でもっと良く保存されると思う」と語った。

 ○「易経」で始まった漢方廃止論

 2004年、中国清華大学の名誉教授楊振寧氏が、ある文化フォーラムにで「『易経』は中華文化の考え方に悪影響を与えて、この影響は中国の近代科学が発展しない一つ大きな重要な原因である」と中国の伝統術学経典「易経」を批判した。楊氏は50年前、アメリカでノーベル物理学賞を受賞したが、晩年になって中国政府に招聘され中国の清華大学で名誉職に就き、頻繁に中国当局を賛美する発言をしたりし、中国当局に愛国科学者として宣伝されている人物である。昨年11月、82歳の楊氏は妻を亡くした後、54歳年下の女性と結婚したことで中国国内で激しく批判されたが、中国政府からは美しい愛情の物語として宣伝されてきた。

 楊氏の発言に素早く強い反応を起こし、中国国内の「易経」学界は一まず楊氏の発言に反発した。

 1ヶ月後、清華大学高等教育研究センターと「科学技術の中国」雑誌社が共に主催した「中国伝統文化が中国の科学技術の発展に対する影響」フォーラムで、楊氏が「易経」に演繹の方法がないこと及び「天人合一」の思想は近代科学が中国で芽生えることを妨げた一つの原因だと主張した。

 出席者の香港中文大学中国文化研究所の陳方正教授はすぐさま、「中国の主流文化は向上心が強く実用的であり、中国自身に科学発展を促したのは漢方医だ」という観点を表明した。しかし楊氏は「もし漢方医自身の『理論体系』に沿って続けると発展ができなくなり、前途がない」と反論した。このように「易経」で始まった論争が漢方医学界に蔓延した。

 ○論争が拡大、民衆が反撃

 楊氏の観点は決して珍しいではない。東北財政経済大学の李笠農教授氏、中南大学科学技術・社会発展研究所の張功耀氏なども漢方医の「科学性」を疑問視する文を公表した。張功耀氏は漢方医薬を国の医療システムから追い出す署名を集めて、「漢方医薬に別れを告げる」のスローガンを出している。

 中国科学院院士何祚庥は10月31日にメディアの取材の中、「漢方医学の陰陽五行理論は非科学的だ」と発言した。何氏はかつても「中国の伝統文化には90%価値ない。それは漢方医学を見て分かることだ」と発言したことがあり、特に、気功、超自然能力などを攻撃する発言が多かった。

 漢方医学への否定および批判は早速インターネット上で多数の反発を招いた。実はここ数年来、インターネット上では漢方医学の価値を問う文章が出る度に、支持と反対する意見の双方の論争はいつも白熱化する。

 この論争に参加したのは一般のインターネット利用者だけでない。元漢方医学古典書籍出版社編集長・中国漢方医科学院の傅景華研究員も今漢方医を巡った論争に「心を痛めている」と言う。漢方医学が科学的であるかどうかを論争すること自体、人為的な落とし穴に陥るとも語った。「漢方医学の医術は生命を究める道であり、主に生命の過程とメカニズムを認識する。漢方医学を人体科学と疫病科学の角度から認識するのは間違っている。漢方医学の認識領域、思考方式、探求の方法、概念と範疇、理論綱紀、実践の目標などは皆人類文明の精髄であり、科学とは漢方医学が一つの理論体系として低い段階で近代科学に符合する部分があるに過ぎない。実は、漢方医学は科学的なだけではなく、その上はるかに科学のレベルを越えて、そして人体科学を包括している。漢方医学を近代的な科学とみなし、実験で定量化し標準化して、客観視する、即ち西洋化させようとする考えは根本的に間違っている。したがってあの『西洋化』した漢方医学こそ本当に非科学的なものなのだ」。

 それに、かつてハルピビン漢方薬第二工場は「漢方医薬は、我々の誇り」をスローガンに全国で漢方医学の振興を呼びかけた。「中国漢方医薬新聞」に掲載後、あるウェブサイトが直ちに転載し、積極的に応えるインターネット利用者は1日で5万人にも及んだ。調査結果で漢方医薬の発展を支持する人は90%有り、漢方医薬は副作用が小さく全体的な治療効果があると思う人が81%いた。

 ○漢方医療病院院長数百人が、漢方医薬廃止論に激しく反撃

 先日重慶で開催した「全国漢方医病院の発展対策シンポジウム」では、インターネットで話題になった「漢方医に別れを告げる署名運動」など漢方医薬を廃止しようとすることが、今回出席する専門家と院長らの注目を引き争点となった。北京、上海、広東などから来た200人余りの漢方医病院院長が漢方医薬廃止論を激しく批判した。

 重慶市漢方医病院院長曾定倫氏は、一部の陰険な下心がある人が、近代的なマスコミとネットを利用し、漢方医薬を廃止するような愚かなことをやっている。このような行為は必ず失敗を招く結果になるに違いないと語った。

 ネット上の署名運動には意外にも医学界の人も参加している。その人は「このような運動があること自体、漢方医薬の教育、研究、臨床、及び宣伝上の不足を暴露している」と語った。

 米国漢方医薬研究院の宣文院長が「漢方医療が科学的であるかどうかの論争は少しも意義がない」と率直に語った。同院長によると、米国では漢方医薬に対する需要が年々上昇の勢いを呈している。権威ある統計によると、最近8年では、米国国民に代替医学(注:米国で「漢方医」の呼び方)の治療を求める人数がはるか西洋医学を上回る。米国現地の多くの脊椎医師、口腔科医師、内科医師らが次々と漢方医に転業しているという。「米国では、漢方医治療に決して西洋薬を使ってはいけない。さもないと医者としての資格を失う。そのため現地の漢方医師の医療業務能力は高い」と言った。宣文氏が「もし中国は漢方医学を保護する施策を行わないと、20年足らずで中国の漢方医学は逆に海外の漢方医学にその根幹である医術を教わることになると警告した。同院長は、独自の漢方医病院を米国に開設する予定であるという。

 ○漢方医の厄介な現状

 これら漢方医学に反対する学者からすると、漢方医の根本的な問題とはその理論を支える近代科学が見つからないことである。しかし、理論上の疑惑だけならば、漢方医学界はまだ大きな危機感を感じないかも知れないが、実は、本当に漢方医学の地位を脅しているのは漢方医自身である。

 ある統計によると、民国初期、中国に80万人の漢方医がいて、1949年に50万人になり、2005年に27万人になった。一部の地区と県レベルの漢方医病院に対する調査結果によると、これら病院の中で煎じ薬の処方箋を出来る漢方医は10%しかいない。つまり本当に漢方医の見方で診療できるのは僅か3万人に過ぎない。

 中国漢方医科学院附属望京病院の院長陳珞珈氏が2006年2月に「人民ネット」の取材を受けた時に、全国2937軒の公立漢方病院の中で、経営が「悪くない」のは三分の一だけで、大半の漢方医病院はとても経営が苦しい。これら「悪くない」漢方病院でさえ、大半が西洋医の治療法を採用していると語った。

 ある漢方医院院長は率直にこのように言った:「今の漢方医病院は、きわめて少数の医者が漢方医薬の治療方法を守っている以外、大半はすでに西洋医学病院あるいは両者併用の病院に変わり、外来診察で漢方薬を少し使って、病棟の中ですでに西洋医学の治療あるいは西洋医学を折衷している現状である。

 大学では漢方医薬の「西洋化現象」が深刻で、学生の授業内容の多くは西洋医学という。「漢方医典籍は選択科目とされ、漢方医学博士は『黄帝内経』さえ読まない」。重慶漢方医院の曾定倫院長は、「英語の検定試験があるため、漢方医学生は毎日単語を暗記するのに忙しく、漢方医学を勉強する余裕があるのだろうか。このような学生は、漢方医学にも西洋医学にも精通できないのだ」という。

 漢方医の資格試験内容は主に西洋医学の内容で、そして漢方医の執業医師は4年間の医学院学歴を持たないと受験資格がない。しかし漢方医を育成するには師が弟子に直接伝承するものが多く、実務経験が豊富な漢方医師の多くは学士学歴を持っていないため医師として開業はできない。多くの漢方医医術と秘方は伝承が途絶え流失し、漢方医薬も年配の漢方医の死亡に従って次第に消えていきつつある。教職の進級のため偽りの論文を書いたり、研究結果を捏造したりする人もいる。これでは本当に価値のある漢方医学の研究成果を生み出すことはできない。

(記者・薛飛)


 (06/11/29 08:55)  





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