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3月4日、花嫁を乗せて水路を進む、潮来の「嫁入り舟」(大紀元)

潮来 嫁入り舟でゆく 水郷の花嫁

 【大紀元日本6月12日】スメタナの名曲で知られるモルダウ川はドイツ語の読み方で、チェコ国内ではヴルタヴァ川というのだそうだ。しかし私たち日本人は、東欧のその川を目にしたことはなくとも、優美な曲を聴きながら、想像の中でモルダウの流れにどれほど親しんできたことだろう。

 ゆるやかに流れる川は、洋の東西を問わず詩情そのものである。その原理は、つまるところ人間の心が水に非常に近いからという、単純なもののような気がする。

 清らかで豊かな水を見れば、人の心は自ずと安らかになる。しかし、もしもその水が人間によって汚されたものであったならば、人はとても悲しい気持ちになるのだ。

 ここで冒険的ながら物理的な定義をすれば、人間とは大いに「水溶性」のものであるらしい。重油やコールタールが川のように流れていたとしても、人はそれを美とは決して思わない。経済に利用価値があったので長らくその醜なる液体に頼ってはきたが、元来が「水溶性」である人間は、それらに対して水と油の相反関係なのである。

 しかし、今更ながら悔やまれることだが、人間はこれまで、油にばかり媚びて水を大いに粗末にしてきた。そのツケを請求される時期に間もなく至るであろう。

 水郷という美称をもつ風景が、日本の各地にはまだなんとか残っている。その一つである茨城県の潮来(いたこ)は、今年の夏も水辺の花が美しい。

 坂東太郎の異名をもつ利根川。その大きさは長江や黄河に及ぶべくもないが、人間の暮らしを支えてきた功績からすれば、世界有数の大河にも劣らぬ役目を担ってきた河川である。

 利根川の水の恩恵なくして、東京都民の生活も、首都圏の経済も成り立たない。今もそうであるし、これからも変わることはないだろう。ならば現代の私たちは、その恵みに今以上の感謝をし、間違ってもこれを粗末にして後世の恥にならぬよう、肝に銘じよう。

 その利根川の河口から35kmほど上ったところに潮来はある。『常陸風土記』には「板来」と記されていたが、元禄年間に徳川光圀により、鹿島の潮宮にあやかって「潮来」に書き改めたと伝えられている。

 奥州の米など豊かな物産を満載し、河口の銚子から利根川を遡上してきた千石船は、この潮来で荷物を小船に積み替えた。小船はさらに上流の関宿まで上り、そこから江戸川に入って南下し、ようやく江戸市中に長旅を終えた荷が至るというわけで、その利根川水運の中継地として潮来は栄えたのである。

 川を遡上するには風力を必要とする。おそらく風待ちには、なんともゆるやかな時間が費やされたと想像する。外海から房総半島の南を回り、浦賀水道を通って直接江戸に至る航路は、海上の危険が増すので、江戸期を通じて主としては使用されなかった。ただ例外的に言えば、気の短い江戸っ子の口に一刻も早く初ガツオを届けたい高速船が、三浦の漁港をとばして、日本橋の魚河岸に直行することはあったようだ。

 いずれにしても江戸時代は、自然力だのみの風帆船である。油や石炭をやたらに燃やして狂走する動力船の時代は、明治から始まって今日まで続く。作業効率は比べるまでもないが、果たして人間の文化としてはどちらが良かったのかと、ふと考えさせられる。

 その潮来も江戸中期以降は、利根川の氾濫によって川筋が変わり、水運の拠点が佐原に移ったため、往時の賑わいをひそめた。

 時代は昭和まで下る。「娘船頭さん」が舟を漕ぐ美しい水郷の観光地として、戦後の日本に名乗りを上げたのが現在の潮来である。地元でサッパ舟と呼ばれる木造の和船も、実は昭和30年代までは住民の日常のなかで普通に使われていたもので、当初から観光用であったわけではない。

 その舟で実際の花嫁を送り届ける「嫁入り舟」は、昭和60年の「つくば国際科学技術博覧会」を契機に復活されたもので、今では6月の恒例行事として親しまれている。

 大勢の観光客を含め、町を上げての祝福ムードには、誰もが幸せな気持ちになってしまう。ちなみに花嫁の後にいる二人は、花嫁の両親ではなく、仲人夫婦だとのこと。 

 6月、潮来の水辺は一年で最も艶やかな季節を迎える。いずれもアヤメ科の植物であるが、アヤメが通常の陸上に生えるのに対して、水辺近くを好んで生えるのはハナショウブ(花菖蒲)やカキツバタである。

 潮来を代表する前川あやめ園も、種類としては花菖蒲が主で、色とりどりの500種100万株が見事に咲く。6月中旬が見頃。「水郷潮来あやめまつり」は6月26日まで開催される。

潮来・前川あやめ園の花菖蒲は、6月中旬が見頃(大紀元)

むらさきが鮮やかな花菖蒲(大紀元)

(牧)

 (11/06/12 07:00)  





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潮来  利根川  花菖蒲  あやめ  嫁入り舟  


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